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仙塩尾根縦走

山行日 
     2000/8/17−8/20    単独 晴れ

コース 
     丹渓新道入口→6合目→小岩峰→馬の背稜線→8合目→馬の背→仙丈ケ岳→大仙丈ケ岳(直下でビバーク)
     7:00      8:45  9:35  10:11   10:16 10:49 12:15  13:1


    大仙丈ケ岳直下→(樹林帯へ)→伊那荒倉岳→高望池→独標→横川岳→野呂川越→三峰山→熊ノ平小屋(テント泊)
      5:12      6:24     7:07     7:21  8:04 8:43  9:04   12:54  14:10


    熊ノ平小屋→安倍荒倉岳→小岩峰→新蛇抜岳→北荒川岳→北俣岳分岐→塩見岳東峰→塩見岳西峰→本谷山→三伏山
     5:10     5:46     6:22         7:56     9:56     10:41    11:25   14:05  15:00

        →三伏峠 →水場(付近でビバーク)

         15:15 16:30

    水場  →  塩川土場
     5:10     6:10

 1997年8月に仙丈ケ岳を歩いたが雨で何も見えなかった。その年の10月に塩見岳を歩いた、天気は晴天、西峰から見た仙塩の稜線の印象が強烈に焼き付いていた。いつかチャンスを見つけて歩きたい、と持ち続けた思いが実現する運びとなった。問題なのは入口と出口がだいぶ離れていることと交通機関である。送り盆を済ませて、車を走らせ、翌朝戸台からバスを利用して丹渓新道入口まで行き、山行して、帰りは塩川土場から最終日のバスに乗り、伊那大島駅へ、列車で伊那市へ、バスで高遠町へ、更にタクシーで戸台へと戻り、車を取って帰宅、という4日の山行計画を立てた。

 自宅を18:00に出て、210kmの下道を走って23:00に戸台の駐車場に着いた、途中茅野からの山越えのカーブで鹿に激突するところだった、想像するのに、ライトで目がくらみ立ち往生してしまうのではないだろうか。

 1日目(8/17)
 6:20臨時の北沢峠行きに乗り込み、7:00歌宿で下車した、一人きりである。登山道は土留めのコンクリートの壁に取り付けられたハシゴではじまった、ギシギシ・ガタガタ、一見しただけでここから歩く人の少なさがわかる。道ははっきりしているので迷うことはないが、蜘蛛の巣がひどい、薄暗く感じる樹林帯の中で蜘蛛の巣が見えないのである。蒸し暑さと蜘蛛の巣、誰が考えてもいやなものだ、びっしりと苔むした林床にセリバシオガマが島状に生え今を盛りとばかり白い花を咲かせていた。地味な花だが針葉樹林帯で木漏れ陽をもらい生育しているのだ。

 歩き始めて2時間過ぎたあたりから、樹高もしだいに低くなり、小岩峰(2639m)に出た。右手は大きく崩落した谷となっている、ちょっと危険を感じながら慎重に横切った、陽の当たる岩場にはタカネビランジが色鮮やかに咲いていた。ここからは緩やかに尾根を左に巻いてついていた、大きなダケカンバの下には、点々とトリカブト、マルバダケブキが咲いていた。再び尾根に出るともうそこは樹林帯を抜け、仙丈ケ岳を正面に見て歩く、トウヤクリンドウ、シロウマオウギ、ミヤマダイモンジソウ、ヨツバシオガマ、クロトウヒレン等々咲くお花畑であった。

3−2−1
       
  セリバシオガマ      タカネビランジ         トウヤクリンドウ       ミヤマダイモンジソウ



 馬の背を過ぎて40,50分で仙丈小屋に着く、前回来たときは荒廃した小屋があって一帯に材木が散乱していたが、大きな小屋が新築され周辺も整備されていた。小屋からの仙丈岳を1枚撮って3年ぶりの山頂を踏む。昼過ぎて、わき上がる雲が周辺の稜線まで包み込もうとしている、小仙丈岳が見え隠れしている。
3−2−2
       
  チシマギキョウ      もう一息、仙丈ケ岳     タカネツメクサ        仙丈ケ岳山頂



 仙丈小屋での幕張を期待していたが禁止なので、兎に角先へ進む。仙丈岳をちょっと下ると、高嶺の百花繚乱という感じ、またここで小休止。高い山はいい、遠望、山容は静的な良さ、花畑は動的な良さを感じる、短い夏に競って子孫を残し、そこには昆虫が舞い鳥のさえずりも聞こえる。大仙丈ケ岳に立ったとき、周辺がガスに覆われ遠雷が聞こえた、この直下にスペースを探し今宵のねぐらとした。雨がポツポツ、遠雷がゴロゴロゴロ、1時間ほど続いた。
3−2−3
             
 大仙丈ケ岳        仙丈ケ岳をちょっと下ったところのお花畑  振り向くと仙丈ケ岳は・・



 2日目(8/18)
 歩き始めて間もなく急な下りとなり、南東方向に北岳と間岳の稜線が朝日を受けていた、若干雲がかかっているが上空を見渡した状況からは、多分晴れそうである。赤みを帯びた山頂部の巻雲は刻々と形を変えている、鳳凰三山は全体を覗かせていた。樹林帯に入る手前のちょっとしたピークで南方に塩見岳を確認できた、高さもあるし独特の形をした山頂部は目立つ。樹林帯に入ると不通となるので、家に電話をする、「順調だ、今日は晴れるでしょう」と。樹林帯といってもこの辺では2700m近い感じである、地図では三峰岳までずーとこの中を歩くわけだ。

3−2−4
                      
 稜線越しに早朝の北岳と間岳   間岳のアップ     樹林帯の手前で彼方に塩見岳が見えた  同じく雲の払われてきた北岳のアップ


 樹林帯を40分ほど歩き伊那荒倉岳の山頂に着いた、標識はあるのだが山頂といった感じはあまりしない。小休止してわずかに下ると高望池に出た、池というよりは樹林帯にできた空間というところ。更に2つ3つ越えて独標(2499m)にたどり着いた、ここは眺望バツグンである。逆光をあびた北岳、北方に大仙丈ケ岳、仙丈ケ岳は雲の中。期待していなかっただけに、ここの展望は楽しめた。また樹林帯に突入するし、2つ3つほど良いアップダウン横川岳を通過して、急坂を180mほど下り野呂川越にでた、ドッコイショとそのまま横に、疲れたと言いたくないが疲れた。ここはエスケープに考えた分岐点だ、両俣小屋を通って北沢橋へ3時間も歩けば出られるところだ。

3−2−5
                  
伊那荒倉岳山頂、樹林帯の真っ只中  独標手前より仙丈ケ岳  独標(2499m)付近から仙丈ケ岳     野呂川越



 重い腰を上げて、標高差700mへいざ行かん。単純に標高差700mの尾根歩きならば大したことはないが、この間のアップダウンがざっと15ほどありそうだ、ということは累計でみると・・・・ということになる。“三峰山、岳”は各地にあるが、ここは“ミブダケ”と読む、秩父には“ミツミネサン”という山があり、北海道の十勝岳と富良野岳の間に“サンポウザン”という山がある、ややこしくって面白い。こんなことを考えながら気をまぎらし、〈なんだ坂、こんな坂〉と自分に言い聞かせ踏ん張り、樹林帯を抜けた。でもガスがかかってきて、目指す三峰岳は全く見えない、すぐ先のピークが見えるだけである。この次かな?、またこの次かな?の繰り返しで、やっと13時前山頂に立った。地図の時間では野呂川越から3時間とあるが、4時間を要した。周辺は何も見えない頂上のケルンだけがずっしりと構えていた。先客が1名腰を下ろして食事中だった、「きつかった!」というと、「そうですか?」と簡単に返事が返ってきた。ということで、私だけがきつかったのでしょう、でも気持ちがいい、3000m−1mのさわやかさだ。ここは野呂川、大井川、三峰川の分水嶺でここから赤石山脈がはじまる、晴れていれば大展望という所なのだが、20m程度の視界しかない、標識を再確認して熊ノ平小屋へ向かう。下りは楽なものだ、三国平(2761m)まで下がると小屋が見えた、一気に安心感か疲れが吹っ飛んだ。でもここでこけたら大変だ、立ち止まって花を眺めてスピードダウンさせ、14時過ぎ熊ノ平小屋に着いた。テント場はたくさんあったが、ニオイに悩まされテン場をあちこち歩きまわり結局、一番下の奥の方へ張った。今晩もまた一雨くるか?
3−2−6
 
  三峰岳山頂



 3日目(8/19)
 熊ノ平小屋はお花畑に囲まれ大量の湧き水があった。丹渓新道から入って、途中で一度も給水をしてなかったので、水のありがたさを感じさせられた。今日のコースでは三伏小屋を経由すれば美味しい水があるが、そこまではコース沿いでは給水できない。5時過ぎ3日目の行動を開始した。

 小屋のちょっと先の平坦なところでタカネヤハズハハコの群落を観ていると、間ノ岳と西農鳥岳の鞍部から真夏の太陽が上がった。今日の天気は上々らしい、塩見岳が正面に雄姿を見せている、向かう峰々も朝を迎えた。樹林帯から小さいピークを越え稜線に沿って進む、明るい広葉樹で林床はトリカブトやマルバダケブキが沢山咲いていた。安倍荒倉岳へは登山道からちょっと入った所にあった、ここからは行く手には塩見が背後には間ノ岳が深い樹林帯を介してどっしりと構えていた。
3−2−7
                  
 タカネヤハズハハコ  北荒川岳(手前)と塩見岳 安倍荒倉岳から北荒川岳(手前)と塩見岳 同じく間ノ岳、左の突起が三峰岳、左遠方の駒ヶ岳



 安倍荒倉岳から30分ほど歩くと小岩峰(2658m)に出た。家に電話を入れる「全て順調、今日の天気は最高だね、塩見が両手を広げていらっしゃいをしているよ」「勝手なこと言って!」、いつも同じような内容だが、お互いに安心材料なのだ。ここからちょっと歩くと新蛇抜岳である、それらしい小さな札がぶら下がっていた。ザックを置きトリカブトの咲く斜面を20mほど上がる、一番高い所を新蛇抜岳の山頂として、周辺の景色を眺めた。
3−2−8
      
 新蛇抜岳付近から塩見岳   新蛇抜岳付近から塩見岳


 再び樹林帯を中を上がったり下がったりしながら、最後にハイマツの急斜面を上り詰め北荒川岳に着いた。塩見岳のすばらしい景色だ、北荒川岳は稜線を北から見たのでは、塩見岳が背後にあり存在価値がうすい、また樹林帯なので形さえもはっきり解らない。でもここから見る塩見岳のすばらしい景色は、北荒川岳に登ったから見られるのである。塩見岳を最頂点に左は蝙蝠岳へと、右は三伏山へと長く力強い稜線が延びている様は、何とも表現しがたい光景である。またここから北俣岳へと続く稜線の曲線(面)美もすばらしい、稜線の右手の崩落の激しさ、これもすばらしい、深山ここにあり。うまく表現できないが、ある面では男性的な力強さ、また違う面では自然の激しさとか厳しさ、これが今日の青空と変化に富んだ山肌の色合いとか形、こういったもろもろから心に迫ってくるものを強く感じるのだ。来て良かった、見て良かった北荒川岳だ、こういう存在の北荒川岳だ。
3−2−9
                    
北荒川岳より塩見岳、        北荒川岳山頂             北荒川岳山頂付近、       同じく砂礫にタカネビランジの大株
一番左の尖ったところが蝙蝠岳             右が大きく崩落している(火口のよう)



 北荒川岳からは稜線伝いに進むルートがあったようであるが、西斜面の崩落を避けてか一旦ちょっと下り、東斜面のお花畑を稜線に沿って平行に歩き、ハイマツと礫の稜線に出た、樹林帯は北荒川岳へ取っつくところまでだったようだ。礫と岩肌の道で、山容を変えていく景色を堪能しながら約1時間半、北俣岳分岐に着いた。蝙蝠岳から戻ってきた方に出会う、様子を聞く「3時間もみれば往復できますよ、ルートはしっかりしていますよ」と教えてくれた、でも今回は駄目だ。北荒川岳から抜きつ抜かれつでやってきた東京から来たという女性が、先に立った。10時だというのにあちこちから雲がわき上がってきた、雲も時によってはアクセントとしてあるいは動的な情景として生きるが、さえぎり方によっては命をも危うくする。
3−2−10
           
  北荒川岳東斜面の巻道   ここまでくれば北俣岳分岐はもうすぐだ、右塩見岳



 塩見岳への最後の登りにつく、大きな岩とハイマツの道で踏み跡を見失った、おかしいと感じて20,30mは歩いている、運良く人声が聞こえた、その方向に向かってハイマツを乗り越えて、ハイマツの間の凹んだ正規のルートに出た。戻っても良かったけれど、充分に安全が確保できる範囲であったので、あえて最短で出られる行動をとった。先に出た女性もついてきてしまったので一言わびる。北俣岳分岐から1時間弱かかって塩見岳東峰へ出た。視界はだいぶ雲にさえぎられて、山頂の展望はいまいちであったが、時々北俣岳から蝙蝠岳の稜線を覗かせていた。西峰からの岩場を落石をおこさせないよう慎重に下る、登ってくる人も点々と見える。あとは三伏小屋まで下るだけと考えたのが、甘かった。この間には本谷山、三伏山の2つがあり、他にいくつかの小さいピークがあった。本谷山でまた例の女性に会う、女性もかなり疲労して様に見えた、聞くと三伏峠小屋に泊まるという。私もかなり疲れもでてきた、水もなくなった、明日のことを考え、このまま三伏峠小屋でテントを張ろう、水も小屋で調達できるだろうと考え、三伏峠小屋へ向かった。15時過ぎ小屋に着く、聞くと水は三伏小屋の水場を往復する、ということだった。状況から、もっと下って塩川寄りの水場でビバークすることを考え、もう一踏ん張りした。薄暗くなった樹林帯の中の急坂をジグザグしながら1時間あまり歩き、岩場のしたたる水に頭から突っ込む。水と寝場所の確保できた瞬間だ、やっと着いた。
3−2−11
           
 塩見岳東峰          塩見岳東峰より西峰  蝙蝠岳、稜線右手奥への稜線       塩見岳西峰



 4日目(8/20)
 夜中に大きな物音で目を覚ます、土砂崩れが・・・と思ったが、月の光が樹間にさし静寂であった。5時過ぎ朝霧の中を塩川土場へ向かう、少し下った所に物音の現場らしきものがあった。大きな朽ちた木が倒れバラバラになって道に飛散していた、折れたところの新しさから、多分ここだろうと想像する。水の音も大きさを増し、2つ目の橋を渡ったところで、沢の冷たい水で汗を流し、最後の下着一式を替えた、さっぱりした。6時過ぎ早朝の塩川土場に立つ、人影もなく静かだ、独り念願の仙塩を越えたことにひたる。
3−2−12
   
  塩川バス停          三伏峠への案内板



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