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燧ケ岳&尾瀬散策

山行日
    2004年8月2日   晴れ    単独

コース 詳細はこちら
    大清水→一ノ瀬休憩所三平峠尾瀬沼休憩所→沼尻休憩所俎ー→柴安ー→見晴→龍宮→山の鼻→鳩待峠

 燧ケ岳には5つの登山道がある、この中で一番古いナデッ窪を一度歩きたい、そして見頃と聞いているスイレン科の植物ヒツジグサを見たい、この二つを同時に満足させるべく、コースを計画した。登山地図のコースタイムを合計すると11時間20分、経験的に距離と標高差から割り出していくと12時間10分、単純に3時にスタートすれば、午後の3時前後には鳩待峠に着くことになり、多少延びても日没までには充分だ。

 こんな浅はかな計画で、ジャスト3時、熊出没中なる張り紙を見て、大清水の駐車場を出発した。雲間に満月と明けの明星が見えていたが、遮断機の脇を通り、林道に入ると木が覆い被さり真っ暗だ。ランプで足元を照らしながら進む、聞こえてくるのは片品川と時々渡る支流の沢の音、見えるものは足元のゴロゴロした石と路肩の雑草ぐらい。尾瀬入山といえば、私の利用した登山道は、鳩待峠が圧倒的で、稀に沼山峠と御池である、大清水は今回がはじめてである。

 突然足元に音も無く何かが、ビクッ、良く見ると大きな枯れ葉であった、ヒキガエルでも出たかと思った。40分ほど歩くと、まわりが開け、車3台が目に入った、続いて先方に煌々とした灯りが、一ノ瀬休憩所だろう、3:45着。防犯のためか、電灯がつけっぱなしになっていた。ここから山道に入るのだが、星はまだまだ明るいし、食事をして時間調整となった。電灯のお陰で安心して、食事を取れた、4:00休憩所を出る。

 大きな橋を渡り、林道は続いているようだったが、登山道は左手についていた。木道あり、階段あり、足元を照らしながら高度を上げて行く。4:30大きな平たい石の所に出た、神様が祀られているようであったが、定かでない。ここを過ぎると潅木が多くなり、時間とともに明るさが増していく。ダケカンバ、ブナの高木の樹林に、ノリウツギ、ミヤマカラマツ、ソバナが点々と咲いていた。ライトをザックに入れて、一安心というところ。ここから、20分ほど歩くとシラビソとダケカンバの樹林帯に入り、ほどなく三平峠に着いた、4:52。標高1762m、峠は、お休み所となっており、東京電力の造った大きな日光国立公園“尾瀬”と書かれた案内板があった。明るい林中であるが、視界のきかない平坦な場所であった。

 峠を少し下ると、東の空が赤く染まり、日の出時刻をむかえている様子だった。丁度5:00、樹間に燧ケ岳を見る、薄っすらと日がさして、ナデッ窪に黒い影をつくっていた、5:05尾瀬沼休憩所着。ここの標高は1665m、道標によれば沼尻まで、左回りで3kmとある。静かな湖畔で小休止して5:10出発、沼に沿った草原を木道は抜けていく、タムラソウ、ウバユリの花はそろそろ終ろうとしていた、シシウドは白い大きな花を沢山つけていた。

 明るさを徐々に増していく天空、光と影の作り出す尾瀬沼と燧ケ岳、変化していく光景を満喫しながらシャッターを切る。小さな起伏を繰り返しながら、湖畔を西方向に進んでいく、漂う朝霧に光が舞い、映す燧ケ岳にカモの一家が小波の平行線を描く。思わず佇んでしまう光景が連続する、富士見峠への分岐点、5:32着。やがて湖面いっぱいに日がさし、くっきりした緑の濃淡に光景が変わる、目指すナデッ窪ルートは、真南の陰影の部分にある、じっと見つめ下から目で追う。小沼湿原で本日はじめての人に会う、朝の清々しさにツヤのある声が響く、6:05沼尻休憩所着。
  
 うっすらと朝日のさす燧ケ岳               燧ケ岳を映す尾瀬沼

  
 朝霧に包まれた尾瀬                 時間とともにクッキリと浮かび上がる光景

  
                       カモの一家が小波の平行線を描く

  
 こんな階段も散策路にあり                太陽が東の稜線に現れる

  
                     変化していく燧ケ岳をシャッターが追う

  
                太陽が湖面を照らしモノトーンから総天然色の世界へ

  
         燧ケ岳は沼尻に近づくと山頂部の形を大きく変える

  
 小沼湿原から燧ケ岳                    沼尻から燧ケ岳、尖った部分がミノブチ岳

 ここで山靴に代え、スパッツを着けて山道に備える。間もなく、店の係りの方が出勤、どうやら長蔵小屋からかよっているようだ。6:23支度を終えて出発すると、直に周回路と分かれ、道標に燧ケ岳(俎ー)2.7kmとある。しばらく木道が続き、徐々に勾配を増していく、これはナデッ窪協奏曲のはじまりだ。

 このナデッ窪について、深田久弥著の日本百名山の中の燧ケ岳のところで、“1889年(明治22年8月29日)檜枝岐村の平野長蔵氏が燧ヶ岳の開山のために友人と登頂、更に9月に頂上し石祠を建設。日本登山界の先駆者、木暮理太郎氏もこの年登頂。”、更に、“ナデックボは雪崩窪(なでくぼ)のつまったもの”、と書いている。そして深田久弥が木暮理太郎にはじめて会ったのがこのナデックボの雪渓の上だったとか。深田久弥は、この書の中で、平ケ岳、燧ケ岳、谷川岳、苗場山、皇海山について木暮理太郎の著書を引用している。余談になるが、両者とも世代は違うが、秩父の山々を愛し、木暮理太郎は没後レリーフが西の金峰山麓の金山(かなやま)平に造られ、もう一人の先達田部重吉のレリーフが東の雲取山にあるり、ちょっと離れた茅ケ岳の山中で深田久弥がたおれ、登山口に“百の頂に百の喜びあり”の碑が建てられている。

 こんなことを聞いているので、敬遠してきたが、何時か歩いてみようが現実のものとなりつつある。木道が終わると樹林帯に入り、涸れた沢を上っていく、はじめは緩やかに、徐々に斜度を増す。しかし、岩も小さからず、大きからず、浮石もほとんど無い。視界は尾瀬沼を見ながら歩けると思っていたら、ほとんど樹々に遮られて、ひたすら上を目指すしかない。30分ほど歩いてやっと潅木となり、枝の間に尾瀬沼をちょこっと見た、しかし、まだ山頂は遠い。岩も徐々に大きくなる、天候の続いたせいもあろうか、適当に引っ掛かって歩き易い。7:05視界が開けて、尾瀬沼と背景に日光白根山を見た、絶景である、青のモノトーンが広がる。ここからは時々広がる雄大な光景を下に見て、疲れは吹っ飛んでしまった。

 山頂に大分接近した感じのした所で、南方向の山の間に富士山が顔を出し、激励してくれた。見上げる空間が明るくなり、左手に赤ナグレ山を見ながら、鞍部へ登山道は向いて延びている。尾瀬沼と日光連山がますます迫力を増してくる。人声が風に乗ってやってくる、ミノブチ岳だろうか、俎ーであろうか。ほどなく道は平坦な場所になり、長英新道と合流する、7:50。
  
 たっぷり水を含んだ湿原、沼尻休憩所前        一直線にナデッ窪コースへ

  
 青い世界、尾瀬沼と日光連山、             長英新道と合流点付近を見上げる


     日光国立公園の南北を一望する、女峰、小真名子、太郎、男体、錫ケ岳が並ぶ

  
 俎ー(三角点と石祠あり)、長英新道との合流点付近から  柴安ー{最高峰)、同じく

 合流点から俎ー山頂は、目と鼻の先、わずかに下って岩場を登り返せば山頂である、8:07着。南から西方向の遠方には若干雲があるが、素晴らしい眺望だ。しかし、風が強く、ウインドヤッケを着る、カメラのブレも気になる。西眼下に広がる、尾瀬ヶ原と取り囲む山々、日本一の高層湿原もあまり距離があるせいか、集落のない広大な田畑かゴルフ場のようにも見える、緑一色がそう見えさせるのかも知れない。北西に目を転じれば、会津駒ケ岳と飯豊連峰、つい最近歩いたかと思うとその距離感はない、8:27柴安ーへ向かう。
  
 俎ー(三角点と石祠あり)山頂               尾瀬ヶ原と至仏山

  
 上州武尊山                        会津駒ケ岳、左遠方は飯豊連峰、右遠方は吾妻連峰

  
 柴安ー左遠方に苗場山                  眼下にミノブチ岳、尾瀬沼、とりまく日光連山

  
 那須連峰方面                        平ケ岳

 強風を受けながら岩場を下って、西の柴安ーへ登り返す、8:40山頂着。俎ーと柴安ーはわずかな間隔であるから、眺望に大きな変化はない、こちらも素晴らしい。はじめて燧ケ岳を踏んだ時代(30年ほど前)は、三角点のある俎ーに大勢の人が集まっていた。しかし、いつの時代からか、最高峰の柴安ーが賑わっているようだ。感覚的に言うのだが、“最高峰を踏まなくっちゃ”っという考えがないだろうか(私もこの一人かも知れないが)。簡単に行ける範囲なら良いが、わずかなところで危険を伴うこともある、わかっているが、人間の人間たる特性なのだろうか、9:00山頂をあとにする。
  
鞍部より柴安ー           柴安ー山頂から平ケ岳、右遠方は左中ノ岳、右が越後駒ケ岳、少しおいて荒沢岳


 柴安ー山頂から尾瀬沼と日光連山

  
 同じく、尾瀬ヶ原と至仏山                同じく、平ケ岳方面

  
                         柴安ー直下から俎ー

  
 柴安ー西斜面から景鶴山                   同じく、至仏山

 山頂部の急坂下りからはじまる、ズッコケやすい小さいゴロゴロした石、転倒につながる浮石が目立ち、慎重に下る。20分ほどで樹林帯に入るが、程度の差はあれ状況は変わりない、相変わらずの足場の悪さだ。まるで水無川の中を歩いているようだ、奮闘1時間半、緩やかな土まじりの道となり、沼尻からの木道に合流する、10:36。中学生の遠足グループに混じって見晴へ、一行はここで宿泊だそうだ10:46着。

 休憩していると、山頂で一緒だった丹沢山麓出身の青年がやってきた、彼は現在尾瀬小屋で働いているそうだ。今日は休みで、山頂でテントを張り、御来光を見たそうだ、その素晴らしさを語っていた。今度は情報交換だ、景鶴山のこと、尾瀬の花々のこと、延長戦には幕がない、自然を愛する彼の純真な目を大切にしてほしい、11:20山靴を脱いで、見晴を出発する。見慣れた光景が展開する、しかし花々は季節の変わり目のせいか、少ない。コオニユリ、オゼヌマアザミ、サワギキョウ、ミズギボウシ、ミズギク、イワショウブ、キンコウカ、ナガバノモウセンゴケ・・・といったところ。

 ここで写真を撮りながら面白いことに気が付いた、燧ケ岳と至仏山が似ていることだ。そんな馬鹿な、と思ったら下に両山を並べて見ましたので一見して頂きたい。構図上は同じ様な大きさで撮った、全然違うといえばそうかも知れないが、ファインダーで見た直感、これは?、と思った。この傾向は、山の鼻に近づくにつれて至仏山は丸みをもち、形の差がはっきりしてくるのだが。
  
 至仏山とコオニユリ、見晴付近から          至仏山とオゼヌマアザミ、見晴付近から

  
 燧ケ岳とサワギキョウ、見晴付近から           至仏山とミズギボウシ、見晴付近から


  
 ミズギク                          景鶴山

  
      燧ケ岳                     至仏山

  
      燧ケ岳                     至仏山

  
      燧ケ岳                     至仏山

 そんなことを考えながら歩いたら、あっという間に龍宮に着いてしまった、11:50。昼時だろうか、炎天下を避けているのだろうか、小屋付近が混み合っていた、通過する。間もなく、富士見方面の木道工事現場を左に見、いよいよヒツジグサとの面会だ。掲示板に貼って頂いたのが、7/25、私の過去の資料では8/15に見ている。先ほど会った人に、聞いてみた「ヒツジグサは咲いていましたか」、「ヒツジグサ?」、「スイレンに似た白い可愛い花だよ」、と付け加えれば「沢山さいていたよ」の返あり、いよいよ迫ったというわけ。

 確かに、池塘のあちこちで出迎えてくれた。この過酷な条件の中で、水面に浮ぶ白い妖精といわれる、清楚な花を咲かせられるのは、と考えてしまう。そこはこの花の持つ神秘的なもの、水位の安定した、貧栄養の水質環境を変えない限り、デリケートな植物であるが、適応性は強いとも聞いている。葉が面白い、良く見ると水中にも葉をもっていて、この沈水葉は枯れないのだそうだ。同種のもので、北海道、東北にエゾヒツジグサがあり、私は雨竜沼湿原と知床五湖で逢っている。

[付記]知床五湖のヒツジグサと書いたので、念のため知床自然センターに確認したら、これは園芸種(スイレン)で、過去(開拓時代)に植えた名残だとか、知床の大自然、人工的なものを見せられて感動していたかと思うと、ガッカリ。
  
                     ヒツジグサ、中田代&上田代で

  
                    ヒツジグサ、中田代&上田代で

  
                    ヒツジグサ、中田代&上田代で

  
                    ヒツジグサ、中田代&上田代で

  
                    ヒツジグサ、中田代&上田代で

  
 ナガバノモウセンゴケと花(白い小さい)         トモエソウ

  
 マルバダケブキ                       コオニユリ

 ヒツジグサに魅せられて、すっかり時間のたつのを忘れてしまった。木道は、牛首をかすめて山の鼻へ、13:20着、小休止。残り物を食べ尽くして、最後の200mの登りにかかる。川上川に沿った湿原には、サワギキョウ、コオニユリ、マルバダケブキが咲き、またの機会と見送ってくれた、鳩待峠着14:10、で山行を終了した。総所要時間は、11時間10分であった。好天に恵まれ燧ケ岳の素晴らしい眺望を堪能し、尾瀬ヶ原ではヒツジグサと久しぶりに対面、良い一日であった。興奮がしばらく尾を引くだろう。

 当コースは長丁場であるが、山が時間とともに、移動とともに変化していく様を、十二分に楽しめる。また、距離と標高差がある故、花々に逢うチャンスも大きい。また、歩くか、と訪ねられれば、勿論Yesだ。ナデッ窪の登りは、5つのコースのうち、一番登りやすいと感じた。また、燧ケ岳から見晴への下りは、歩きにくいことを付け加えておく。


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