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雁坂峠越え
  
山行日
    2004年6月2日   ほぼ晴れ   単独

コース 詳細図はこちら: 雁坂峠登山口(埼玉県大滝村)〜雁坂峠、  雁坂峠〜雁坂峠登山道入口(山梨県実と三富村)
    雁坂峠登山口(埼玉県大滝村)→石の道標→水の本→雁道場→突出峠→樺小屋→地蔵岩展望台→雁坂小屋→
    雁坂峠→沓切橋→雁坂峠登山口(山梨県三富村)→雁坂峠登山道入口(R140)

“三大・・・・”、という言葉にひとは弱い、私もその一人。先日甲武信ガ岳を歩いた時に、同行者から日本三大峠の話を聞かされた、その日は時間的に無理なのでやめた。南アルプスの三伏峠(2580m)は3度、北アルプスの針ノ木峠(2541m)は2度歩いているその意味は抜きにして、じゃー、歩いてみようか、と目標になってしまう。それもあるが、もう一つ理由があった。それは、昨年例幣使道を歩いた時、情報を頂いた方に「秩父往還を歩きたいのだが、雁坂峠の情報は?」、と尋ねられた。返答できなかったが、その話を聞いて、私もいつか歩いてみたい、という志が生まれていたのである。

 秩父往還の詳しいことはわからないが、中山道と甲州街道をつなぐ道で、秩父観音霊場巡拝路、秩父の繭を塩山へ運ぶルートとして利用されたようだ。雁坂峠の歴史は古く、日本書紀景行記というのに、日本武尊が蝦夷地平定のため利用した、と記されていることから日本最古の峠道といわれているとか。前置きはこのへんにして、話を進めよう。

 国道140号線の脇にある、雁坂峠登山口(埼玉県大滝村)を4:15スタートする。路上の温度標示は8℃をさしていた、ちょっと寒いかな。若干霧がかかり薄暗い杉森をいきなり急登する、小幅でしばらく歩く。フタリシズカ、テンナンショウの花が沢山咲いている。5,6分歩くと曲がり角に、木製の道標と大正時代の石の道標が並んで建っている、雁坂峠に向かって、古道を歩いている実感がわいてくる。ジグザグに斜面を登る、ここまで来るとスイスイと足が軽やかに出る。今日はウオーキング用シューズで、荷物も3kg強と軽い、服装は長ズボン、長袖である。
  
 雁坂峠登山口(埼玉県大滝村)                山の神様だろうか、祠が一つ

  
  大正期の道標(右)                       フタリシズカの花

 アクセルを踏み込むトラックのエンジン音が時々聞こえてくる、それ以外落ち葉を踏みしめるサクッ、サクッ、という音だけだ。杉が落葉樹に変わる、ナラ、ホウ、サクラ、ブドウのつる、また杉にかわる、2度3度繰り返し高度をあげていく。森の隙間から空を覗く、上空は真っ青のようだ、南は雲が多い。切痕の新しい間伐材が林中に放置されている、よく見かける光景だがもったいない。30分ほど歩いたが緑は濃く夏山に近い。稜線を巻くようにして進んできた道が、緩やかになって4:50、“水の本”と書かれた道標の建つ小さな沢に出る。パイプから出る水を一口ふくんで、歩き出す、美味いような気がする。杉森の中に点々と人工的な石垣ふうの石積が見える、何だろう、平坦に近い場所なので不思議、疑問1?

 ここから3分ほど進むと、大きくカーブして西方向へ進みジグザグしながら高度をかせぐ。アセビの小さい木が林床に点々と見える、かっての切り株から出たものなのか、新たに根付いたものなのかわからない、疑問2?。水のチョロチョロ流れている二つ目の沢を渡り、木の間から南東方向に山並みを見る、峠?、いや。山側が広葉樹に変わり、隙間から尾根が近い感じがする。このあたりは、シラカバ、カエデ、カラマツが目立つ、樹床はササに被われている。大きいカエデが沢山ある、ブナの樹皮に似て光沢があり元気な証拠だ。まだ車の音が聞こえる、5:14雁道場着、雁坂峠まであと7.4km、どうやらここで稜線に出たようである。

 2分ほど進んで黒文字橋へ下る道を分ける、右の沢の音、左から車の音、複雑なアンサンブルだ。しばらく登ると西側の樹林が切れて、北西の稜線が顔を出す、木賊山〜甲武信ガ岳付近かなと思い地図を見る、武信白岩山〜赤沢山の尾根のようだ(後日カシミールで確認済み)。カラマツの二次林に入る、広葉樹が入り込み、ササが樹床に繁茂してブッシュとなっている。すると、間もなく看板があった、“人工植採地、昭和17年、東京大学農学部・・・”、と書いてあった。60年が経過しているのに、大きいもので直径が40cmほどしかない。看板通りとしたら、成長速度の遅いこと、びっくりである。
  
 水の本、道標                           雁道場、道標

  
   赤沢山1819mか                       武信白岩山〜赤沢山の方向

 何時の間にか車の音は止んで、ホトトギス、ウグイスの鳴声が伝わってくる。回り込んで稜線のわずか下を歩き再び稜線に出ると、太さ1mほどのブナの木に逢った、木洩れ日がさし見上げると若葉がまぶしい。続いて1.5mはあるミズナラの木、何やら書き物があった、“ミズナラの結実の遺伝特性試験(1993〜)”、とあり、中味を要約すれば“成り年、不成り年があって、小動物によって運ばれ成長した子木もまた同様な結果をもつ、これが兄弟で同調するのか、母樹の遺伝子によるものなのか、気候等に影響されるのか、調査している”、そうです、難しい???。5:55、突出峠着、川又5.5km、雁坂小屋5.3km、雁坂峠5.9kmの道標あり、峠まで半分、標高差で1000m歩いたことになる。
  
 調査中のミズナラ、デッカーーイ木             5mぐらいのところから二又に分かれている

              
  この辺の登山道                              同じく

  
 鹿の食害、コメツガの木、枯れてしまうでしょうね     同じく、コメツガ、やられたばっかり、大丈夫かな?

  
  カラマツの大木の立ち枯れ                  すっぽり天上があいちゃって、誰かさんの○見たい

 ここからの樹林帯が素晴らしい、何がすばらしいかって、気に入ったのは直径1mもある沢山のカラマツかな。コメツガも大木が多い、広葉樹もブナ、ナラ、カエデ、ナナカマドなど種類が多い、木洩れ日がさし森林浴にはサイコー。大きなカラマツからサラサラと音を立てて散り落ちる葉っぱ、秋の日を想像しただけで絵になるね。ダケカンバの密生する小木、これもいいね。さわやかな気分に浸って、樺小屋着、6:22、雁坂峠4.5km、川又5.6kmの道標あり。

 小屋を覗いてみる、まだ新しいって感じ。建てつけ良好、きれいに清掃されている板張りの床、土間(コンクリート)、薪ストーブ、水場も3分と書いてある。外には3枚の案内板、1枚は森林植生、2枚目はルート案内、3枚目は樺小屋付近の主な植樹である。興味深いのは、一帯は1959年の伊勢湾台風で未曾有の森林破壊が起こった。そして、その後芽生えた成長速度の速いダケカンバが、破壊された一帯に、樹林を形成しつつある、そしてダケカンバの根本にある小さいコメツガやシラベが大きくなって森林が蘇るには数百年かかる、とか。壮大な自然のサイクルである。

 ポーッ、ポーッ、ポーッ、と低い声で鳴くミミズク、甲高いトッキョキョカキョクと鳴くホトトギス、バスもソプラノも静かな森に響き、心身ともにリラックスしちゅね、6:35小屋出発。あっ、トイレは見てこなかった、どこにあるのかな?。温度は7℃をさしていた。
  
 樺小屋                              入口の引き戸と表札

  
                         若木のダケカンバが密生する道

 そこから稜線のわずか下を進み、水の無い沢を2つ横切る、“だるま坂”と書かれた看板を見る。内容がホットだね、ほっとしました、形式にとらわれないで、こういう道標やら案内板があると楽しく歩けるね。6:59地蔵岩展望台分岐着、雁坂峠3.2km、川又8.1kmの道標あり。踏み跡を辿りシャクナゲの群落を横切って地蔵岩へ、低い雲に遮られてイマイチではあったが、素晴らしい眺望が迎えてくれた。

 甲武信ガ岳方面の延々と続く稜線、青い御座山とその背後に白い後立山連峰(五竜岳〜白馬岳)、そして右手に煙を上げる浅間山の遠望である。秩父連峰の峰峰の深い緑がやさしくその光景を包んでいた。岩場では、コイワカガミが咲き乱れ、見下ろす断崖には、これから開花する高山植物が暖かく日差しを浴びていた。林中では咲き残ったシャクナゲの淡いピンクの花が、私のために最後の華やかさを見せ付けているようだった、7:25分岐点に戻る。
  
  味のある看板                          地蔵岩分岐

  
 林中のシャクナゲ                        岩場のコイワカガミ


  御座山(左の青)、その背後にに後立山連峰(五竜岳〜白馬岳)、そして右手に煙を上げる浅間山の遠望である。


   甲武信ガ岳(真中の丸いピーク)方面の稜線

 ここから、稜線を東に巻いて小さい沢やガレ場を通り、小さいアップダウンを繰り返し、雁坂小屋へ向かう。3分ほど分岐点から進むと、小さいガレ場を渡ると、東側が開ける。黒岩尾根の左に独特の形をした武甲山が現れる、ちょと雲取山と錯覚したが、秩父の街並が左手に見え、判別がついた。今度は大きめなガレ場だ、といっても20mほど、足場は確保できるので心配ない。赤城山が秩父の左手にかすかに見えた、日光の山も。時々切れる樹林から遠望するのも楽しい。道は、アップダウンしているが、疲労感はない。8:01、大きな滝状の流れに出る、雁坂嶺を源頭とする豆焼沢である。山頂からわずかな距離で、沢山の水量を集め、滝をつくって下って行く元気な流れである。上方を見上げると雁坂小屋の取水口でもある、ここから約1km引いていくのだろう、2本のホースが走っている。
  
  武甲山遠望                           黒岩尾根の山々

  
 赤城、日光の山々遠望                      黒岩尾根の肩に雁坂小屋を見る

  
  ガレバにかかる丸太の橋                  滝状の水場、小屋の取水場

  
 赤城、日光の山々遠望                     沢の苔むした上部

 水のある沢ない沢、小さい沢が連続する、数えきれないほど渡った。最後は小屋の水場へ飛び出た感じ、8:18雁坂小屋着、小休止。小屋の方はシーズンを前に、大工仕事におわれていた、木挽きの旋律が静まり返った山に響きわたる、8:30アズマシャクナゲの花に見送られて出発。峠から北面の眺望を見ながら、一登りすると、本日の目的地である雁坂峠に出た、8:43。
  
   雁坂小屋、背景は東側の主稜線           ズッシリした看板がいいね、10cm厚板に彫刻

  
 小屋付近のアズマシャクナゲ       上州武尊、燧ケ岳、赤城山(手前)、日光白根山、太郎山、男体山、女峰山

 まず目に入ったのは、真正面の青い富士山である、こちらから見る限り幾本かの白いラインを残して雪解けが進んでしまった夏の富士山である。もくもくとたなびく雲の上に映す、空にそびえる均整の取れた気高さに満ちた山容は、やはり日本のシンボリックな山である。コニーデ型の山は無数にあり、山としてはそれぞれの味をもっている、でも比較対照ではない。昨今騒がれるマイナス面は眺望する姿からは漂ってこない、清らかなのである。次が南アルプス、仙丈ケ岳と駒ケ岳、まが雪を残している、しかしもうすぐ山好きの連中を安全に受け入れてくれるだろう。とりまく緑豊かな秩父連峰、その魅力は人々をして虜にして放さないだろう。

 この峠には古く縄文時代からの歴史があると聞く、文化の往来があり今日の埼玉と山梨の底流がある。時代が千変万化する中で、草木はしっかりと根をはり、水を蓄え、生物を育み続けるだろう。人間という動物が自我欲求のために破壊しない限り、自然は優しく応えてくれるだろう。山を歩く度、美しい自然に接する度、こんな気持ちになる、私だけではあるまい、9:00峠をあとにする。
  
   雁坂峠                               雁坂峠

  
  峠より富士山                          同じく、仙丈ケ岳と駒ケ岳、中央部に頭

  
  甲武信ガ岳方面                         深い谷の先端にR140の笛吹川にかかる橋が望める

  
 山梨県三富村への下山路                     峠の富士

  
 峠の富士                               峠の富士

 歩き出すとすぐに、石だらけのジグザグした急坂を下る、斜面はササに被われ、高度が下がるにつれてコメツガ、ハリモミ、サクラ、ナナカマド、ダケカンバ、カエデの混生林となる。9:35小さい沢を、石の上をまたいで渡渉する、ここから緩く東方向に進み沢が合流する、この沢に沿って右岸を歩く。小さい沢の水を集め、ドンドンと成長し急流を作り峠沢となる。峠から40分ほど下ったところで、今日はじめて人に会った、甲武信から十文字へまわるとか、縦走のようだ。ここからちょっと進んだ所で短いトラロープを伝って沢に下り、間もなく渡渉する、9:57。ここは、水量が多いのでスリップ注意である(落ちても濡れるだけ)。
  
 1回目の小さい渡渉                       2つ目の渡渉(図示の地点)

  
 水量を急激に増す沢                       ギンリョウソウ

 左岸に出て沢筋を歩く、枝沢をダウン&アップしながら峠沢に沿って下る、間もなく橋が目に入ると山道は終わりとなる、10:20。ここが林道の終点である、あとは途中で5ふんほど小道を下るが、全体として林道歩きとなる。11:00、一旦小道へ、11:05登山口へ、11:10国道へ出て本日のウオーキングは終了した。
  
 沓切橋(くっきりばし)                     振向けば主稜線

  
 雁坂道路の下を通る                       ここから5分ほど小道を歩くと

  
 登山口に出る                           5分ほどで国道140号線(突き当たり)へ

  
 出た地点には入口の道標                    沢を挟んでバス停と入口(どちらも通じている)

 総所要時間は、6時間55分であった。歴史を感じさせるものは、正直言ってなかったが、森林はすばしいと思う、峠の眺望もいい。山地図によるコースタイムは10時間ほどのようであるが、ザックは雨具、食料3食、水1リッターを入れて3kg強、靴がウオーキング用軽量なため、足運びがよく、短縮してしまったようである。ここからは、バス停の反対側にある道の駅で、すんなり軽トラの宅配便に、荷台に乗って送られて、トンネル内で古人のうめき声(?)を聞きながら、11:40に車に戻ったことを記しておこう。


 

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